屍鬼


 この作品も、一般人と超常存在との対決ですね。
 前半部は今ひとつでした。
 ひたひたと村に忍び寄る死……というのは、それなりに魅力を感じるのですが、私にはあいませんでした。
 まず、キャラが多いうえに同時進行していくために、人間関係などが把握できなかったこと。
 もう一つは、主要キャラなどに魅力を感じられなかったため。
 孤軍奮闘する尾崎敏夫以外、好きになれないキャラが目立ちました。
 清水恵は、ある意味で田舎にいる標準的な若者と言えそうですが、ただミーハーなだけで薄っぺらい人間に感じました。周りに馴染もうとしない結城夏野とか、身勝手三昧の村迫正雄も嫌いです。
 この作品が面白くなったのは、やはり、尾崎が起きあがりを証明し、人間側の逆襲が始まってからでしょう。


・結城 夏野
 原作だと起きあがらずに死亡とか。アウトロー的なヒーローなど、作品にそぐわないと思います。
 辰巳との戦いは、野暮ったかったですね。運動能力が向上しただけなのに、戦闘訓練もしていない人間がいきなり超人戦闘を行う作品が多いので、ある意味で現実的と言えるのでしょう。


・夏野父
 田舎暮らしの決行や夫婦別姓など、建前上の個性を優先しすぎていて、身勝手さが目立ちました。
 田中かおり・昭から預かったお守りを即座に捨てるというバカ行動のせいで、息子が殺されるという間抜けさには呆れました。オカルト嫌いを徹底して、お守りを受け取らなかったなら、ここまで嫌な印象は受けなかったでしょうね。


・夏野母
 夏野が死んだ途端に出て行ってそれっきりというのは、凄いキャラだと思います。

 
・大川富雄
 かっこ良かったです(笑)。
 車を持ち上げた時点で撃ち殺されていればその後の活躍も無かったんですけどね。尾崎以外はその他大勢が多かった中、存在感が際だっていました。

・婦人会?
 何の感慨も見せず、起きあがりの死体を始末していく女性陣が逞しかったです。


屍鬼
 私は一貫して人間側に感情移入していたため、屍鬼への同情心は皆無でした。
 例えば、藤子不二雄の『流血鬼』のように、血を吸われた人間が全て変容していくというのなら、共存できる可能性もあるし、全員が吸血鬼になるという選択肢も残ります。
 しかし、屍鬼では半分以上が起きあがらない上に、その後の生活に人の血が必須となると、これは徹底抗戦しか選択肢がありません。


・室井静信
 異種族間における争乱の物語の場合、終戦へ導く存在として融和を訴えるキャラが不可欠です。
 それを考えると室井 静信のようなキャラが登場するのは当然と言えるのですが、私がこの作品で一番嫌いなのがこの人でした。
 静信は、沙子以外の誰かを助けようと行動を起こそうとせず、ただ起きた事態を受け入れるだけです。許しを与えるのも、自分が納得するためです。
 なにより、同情心は屍鬼に対してしか向けられておらず、屍鬼に襲われて死んだ者や家族の苦しみは平然と無視しているように感じました。
 寺に逃げ込んだ時も、身内と言っていい人間が死んだと言うのに、殺した相手への怒りすら見せず、まるで動揺しません。自分が逃げ込んだことが原因だという自覚すらないようです。
 これで本人が利己的な人間だと自覚しており、周囲もそのような評価を与えていれば、印象が違ってくると思うのですが、物語上、理性的で穏和な人間扱いされたままなのが不満でした。
 なんの報いも受けることなく、共感した沙子と一緒に無事に逃げ延びたというのは、まるで納得できません。
 それに、今回はたまたま沙子だっただけで、「人間以外」の何かであれば誰でも仲間になっていたように思います。


・桐敷沙子
 面白いもので、沙子への悪印象は静信よりも軽いものでした。
 沙子は歩んできた人生も含め、人間の倫理観から外れた存在と感じているからです。彼女は最初から最後までただの化け物だから、人間の価値観や道徳観を求めるのが無理でしょう。
 人間を襲って屍鬼を増やす生活が、神への信仰に則っていたつもりのようですし、理解するのは無理というものです。