風果つる街


 将棋のプロ棋士編入試験があり、アマチュア棋士がめでたく合格を果たしました。
 ここで私が思い出したのは、小説の「風果つる街」です。作者は夢枕獏。私としては「キマイラ」や「闇狩り師」の夢枕獏ですが、最近の作品として名前の通りがいいのは「陰陽師」でしょうか。


 主人公は賭け将棋で暮らしている年老いた真剣師・加倉文吉。
 その中編作品「妄執の風」で、文吉はアマチュア棋士の大仁田と出会う。
 アマチュアの三大タイトルを独占するほどの実力を持ちながら、二十歳を越えて将棋を知った大仁田にはプロ棋士への道は存在しなかった。因縁の有村八段との対局を望み慟哭する大仁田に、「おれがやらせてやる」と文吉は告げるのだった。


 この作品のキモは、どうしてもプロへ編入できないことです。だからこそ、哀切さが漂っているのですが、現実世界で編入が可能となるとどうしても拍子抜けしてしまいます。
 前提条件が変わってしまって、小説としての面白みが半減してしまうという、珍しい例ですね。


 ちなみに、この作品は「獅子の門」と世界観がつながっているため、羽柴彦六や加倉文平といったメンツもこちらに登場しています。扱いてきにはゲストキャラにすぎません。群像劇といった作りの「獅子の門」も面白いですよ。